フローラルフォームを使わないエコアレンジに挑戦した理由
環境問題への意識がアレンジメントの手法を変えた
フラワーアレンジメントを本格的に始めて5年目のある日、私は自分の作品づくりに使っている大量のフローラルフォームを前に、ふと立ち止まりました。月に平均8個は消費していたこの便利な資材が、実は環境負荷の高い素材だと知ったのです。
フローラルフォーム(別名:オアシス)は、フェノール樹脂を主成分とした発泡体で、一度使うと分解されずに環境中に残り続けるという事実を、あるフラワーデザイナーのブログで知りました。IT業界で働く私にとって、データやエビデンスは常に重要です。調べてみると、フローラルフォームは土壌に還らず、焼却時には有害物質を発生させる可能性があることが分かりました。
便利さと環境配慮の間で揺れた1ヶ月
正直なところ、最初は「代替手段なんてあるのか?」と半信半疑でした。フローラルフォームは確かに便利です。水を含ませれば花材を自由な角度で挿せて、保水力も抜群。休日の限られた時間で作品を作る私にとって、効率性は譲れない条件でした。
しかし、年間100個近く消費していた計算になり、その数字を見たとき「このままでいいのか」という疑問が確信に変わりました。平日は激務のSEとして働きながら、週末にアレンジメントで癒しを得ている私だからこそ、自然の美しさを楽しむ趣味が環境に負荷をかけているという矛盾に向き合う必要があると感じたのです。
エコアレンジへの挑戦を決意した3つの理由
最終的に、フローラルフォームを使わないエコアレンジに本格的に取り組むことを決めた理由は以下の3点です。
- 環境への責任:趣味を長く続けるためにも、持続可能な方法を確立したかった
- 技術力の向上:制約がある中でこそ、本当のアレンジメント技術が磨かれると考えた
- 差別化の可能性:将来的に副業や講師活動を考えた時、「エコアレンジのプロ」という独自性が武器になる
特に3つ目の理由は、システムエンジニアとしてのキャリアで学んだ「市場での差別化戦略」の考え方が活きています。環境意識の高まりとともに、エコアレンジのニーズは確実に増えていくはずです。
こうして2022年4月、私は「1年以内にフローラルフォームを使わない本格的なアレンジメント手法を確立する」という目標を掲げ、試行錯誤の日々をスタートさせました。当時は、この挑戦が30回以上の失敗と、予想外の発見に満ちた冒険になるとは思ってもいませんでした。
年間で30回以上試作した失敗の記録
エコアレンジの実現に向けて、私は1年間で30回以上の試作を重ねました。その過程で経験した失敗は、むしろ成功への貴重な道しるべとなりました。ここでは、試行錯誤の記録を包み隠さず公開します。
初期の失敗:ケンザンだけでは限界があった
最初の10回は、ケンザン(剣山)のみを使ったアレンジに挑戦しました。「フローラルフォームを使わないなら、まずはケンザンだろう」という安易な考えでしたが、これが大きな誤算でした。
ケンザンだけでの失敗例:
- 試作1〜3回目:花材を垂直に挿すことしかできず、デザインの自由度が極端に低い
- 試作4〜6回目:横方向に挿そうとすると花材が抜け落ちる
- 試作7〜10回目:大きめの花材(バラやダリアなど)は安定するが、細い茎の花材(スターチスやカスミソウ)が固定できない

特に困ったのは、立体的なアレンジメントが作れないという点でした。ケンザンは底面固定が基本なので、空間を活かした欧風アレンジには不向きだったのです。保水性も、花器の水位に依存するため、浅い花器では使えませんでした。
中期の試行錯誤:小枝フレームの可能性と限界
11〜20回目の試作では、小枝を組み合わせてフレーム構造を作る方法を試しました。自然素材100%のエコアレンジという理想には最も近い手法でしたが、実用面で多くの課題が浮上しました。
| 試作回数 | 試した方法 | 結果 | 問題点 |
|---|---|---|---|
| 11〜13回目 | 柳の枝でドーム型フレーム作成 | △ | フレームが柔らかすぎて花材の重みで崩れる |
| 14〜16回目 | ドウダンツツジの枝で格子状構造 | △ | 組み立てに30分以上かかり非効率的 |
| 17〜20回目 | 小枝を針金で固定する方法 | × | 針金を使う時点でエコの意味が薄れる、見た目も不自然 |
小枝フレームの最大の問題は、再現性の低さでした。枝の太さや曲がり具合が毎回異なるため、同じクオリティのアレンジを安定して作ることができません。また、制作時間が長すぎて、忙しい平日の夜には到底実践できない手法でした。
転機となった21回目:チキンネットとの出会い
21回目の試作で、ようやくチキンネット(亜鉛メッキの金網)を試してみました。園芸店で偶然見かけた素材でしたが、これが大きな転機となりました。
初回から手応えを感じた理由:
- 花材の挿入角度を自由に調整できる
- 細い茎から太い茎まで幅広く対応可能
- 網目構造が保水スポンジのように水を保持する
- 軽量で花器への負担が少ない
ただし、ここからさらに9回の改良試作が必要でした。網目のサイズ、花器への固定方法、保水性を高める工夫など、細かな調整を重ねることで、ようやく30回目に「これなら実用レベルだ」と確信できるエコアレンジ手法が完成したのです。
この失敗の記録は、すべてExcelシートに日付・花材・所要時間・問題点を記録しています。データ化することで、同じ失敗を繰り返さず、着実に改善できました。
フォームの代替手段として試した3つの方法
① ケンザン(剣山)を使った和風アプローチ
最初に試したのは、日本の生け花で使われるケンザン(剣山)でした。フローラルフォームを使わないアレンジメントといえば、まず思い浮かぶのがこの方法です。
試行期間:1〜2ヶ月目(計8作品を制作)

針の上に茎を刺して固定するシンプルな構造なので、フォーム不要のエコアレンジとしては理想的に思えました。実際、バラやガーベラなど茎がしっかりした花材は安定して固定でき、水替えも簡単。何より繰り返し使えるので環境負荷が低い点は大きな魅力でした。
しかし、欧風の立体的なアレンジメントを作ろうとすると限界が見えてきました。
- 高さ方向への展開が難しい:針が垂直方向にしか刺せないため、横や斜めに流れるようなデザインが作りにくい
- 繊細な花材が刺せない:スイートピーやカスミソウなど茎が細い花は針で茎が潰れてしまう
- 花数を増やすとバランスが崩れる:10本以上刺すと重心が不安定になり、倒れやすくなる
特に印象に残っているのは、ラナンキュラスとユーカリを組み合わせた作品。ラナンキュラスの柔らかい茎が針で潰れてしまい、2日で萎れてしまった失敗です。ケンザンは和風の少数精鋭スタイルには最適ですが、ボリュームのある欧風アレンジには不向きという結論に至りました。
② チキンネット(ワイヤーメッシュ)による立体構造
次に挑戦したのがチキンネット(鶏小屋用の金網)を丸めて花器に入れる方法です。海外のフローリストがよく使っている技法で、SNSで見かけて興味を持ちました。
試行期間:3〜6ヶ月目(計12作品を制作)
ホームセンターで購入した亜鉛メッキのチキンネット(網目約2.5cm)を、花器のサイズに合わせてカットし、軽く丸めて容器に詰めます。網目に茎を通すことで、あらゆる角度から花材を挿入できるのが最大の利点でした。
| 評価項目 | ケンザン | チキンネット |
|---|---|---|
| 角度の自由度 | △ 垂直方向のみ | ◎ 360度対応 |
| 花材の適応性 | △ 太い茎のみ | ◎ 細い茎もOK |
| ボリューム対応 | △ 10本程度 | ◎ 30本以上可能 |
| 準備の手間 | ◎ そのまま使用 | △ カット・成形必要 |
| 水替えの容易さ | ◎ 簡単 | ○ やや手間 |
チキンネットを使った作品の中で特に成功したのは、トルコキキョウとスプレーバラを20本以上使った豪華なアレンジメント。網目が花材をしっかりホールドしてくれるため、重量のある花でも安定しました。
ただし、課題も見つかりました。金網の切断面が鋭利で、作業中に何度か手を切ってしまったこと。また、網目に絡まった茎を取り除く際に花材を傷つけやすい点も気になりました。それでも、この方法は後に私が最終的に採用する手法の基盤となりました。
③ 小枝を組んだ自然素材の土台
最後に試したのが、庭木の剪定枝を組み合わせて土台を作るという完全ナチュラルな方法です。環境への配慮を最優先したエコアレンジの究極形を目指しました。
試行期間:7〜8ヶ月目(計10作品を制作)

柳の枝やドウダンツツジの細い枝を格子状に組み、麻紐で固定して土台を作成。この上に花材を配置していくスタイルです。見た目は非常にナチュラルで、森の中のような雰囲気が出せるのが魅力でした。
しかし実用面では問題が多発しました。
- 制作に時間がかかる:土台作りだけで30〜40分必要
- 固定力が弱い:花材が少しずつずれて、3日後には形が崩れる
- 保水性がない:枝が水を吸ってしまい、花材への給水が不十分
- 再利用が難しい:使用後は枝が傷んで次回使えない
特に失敗だったのは、アジサイとユリを使った初夏のアレンジ。重量のあるユリの花首が下を向いてしまい、2日でアレンジメント全体が崩壊しました。ロマンはあるものの、実用性に欠けるというのが正直な評価です。
この3つの方法を試した結果、チキンネットが最も可能性を秘めていることが判明。ただし、安全性と使いやすさを改良する必要がありました。次のセクションでは、この課題をどう解決したかをお伝えします。
ケンザンを使ったアレンジの限界と気づき
最初の挑戦として選んだのがケンザン(剣山)でした。フローラルフォームを使わないエコアレンジの定番道具として多くの書籍やサイトで紹介されていたため、「これなら確実だろう」と、まずは直径15cmの円形ケンザンを購入。和風の生け花だけでなく、洋風アレンジにも応用できると考えていました。
ケンザンで直面した3つの壁
実際に使い始めて1ヶ月、10作品ほど制作したところで、ケンザンには明確な限界があることに気づきました。
1つ目の壁は、茎の太さによる制約です。ケンザンの針は一定の太さと間隔で配置されているため、細すぎる茎(ワックスフラワーやスターチスなど)は針に刺さらず固定できません。逆に太い枝物を刺そうとすると、針が曲がってしまうリスクがあります。私の場合、ユーカリの太めの枝を無理に刺したことで、3本の針を曲げてしまいました。
2つ目の壁は、デザインの自由度です。ケンザンは基本的に器の底に固定して使うため、花材を挿す位置が器の開口部に限定されます。横に広がるナチュラルなデザインや、器の縁から垂れ下がるような動きのあるアレンジを作ろうとすると、どうしても不自然な角度になってしまいます。特に現代的な欧風アレンジで求められる「空間を活かしたデザイン」には向いていないと感じました。
3つ目の壁は、ボリュームのあるアレンジへの対応です。10本以上の花材を使った華やかなアレンジを作ろうとすると、ケンザンの針の数では足りず、花材同士が干渉し合ってしまいます。無理に詰め込むと茎が傷つき、水揚げが悪くなって花の持ちも悪化しました。
5回目の失敗で見えた本質的な問題

試行錯誤を続けた結果、ケンザンは「和の生け花」という限定的な用途には最適化されているものの、多様な花材を自由に組み合わせる欧風のエコアレンジには構造的に不向きだという結論に至りました。
特に決定的だったのは、バラ、トルコキキョウ、ユーカリ、かすみ草を組み合わせたラウンドアレンジに挑戦した時です。ケンザンでは花材の角度調整が難しく、理想の丸いシルエットを作れませんでした。この失敗で、「固定力」だけでなく「角度の自由度」こそがエコアレンジ成功の鍵だと気づいたのです。
この経験から、次はより柔軟な固定方法を探す必要があると判断し、チキンネットという新しい選択肢に目を向けることになりました。
小枝を使った固定方法が失敗に終わった理由
ケンザンとチキンネットの実験を経て、最後に試したのが「小枝を使った固定方法」でした。自然素材だけで花を固定できれば最もエコで美しいアレンジになるはずだと期待していましたが、結果的にこの方法は私の中で最も大きな失敗に終わりました。今回はその失敗の詳細と、なぜ小枝固定が実用的でなかったのかを包み隠さずお伝えします。
小枝固定法に期待した理由
小枝を使った固定方法に挑戦したのは、エコアレンジの最終形態を目指していたからです。フローラルフォームはもちろん、金属製のケンザンやプラスチック製のチキンネットさえも使わず、完全に自然に還る素材だけでアレンジメントを作る——これが実現できれば、環境負荷ゼロの理想的なアレンジメントになると考えました。
具体的には、花器の底に十字に組んだ小枝を敷き、その上にさらに細かい枝を格子状に重ねることで、花材を挿す隙間を作る構造を想定していました。ヨーロッパの一部のフラワーデザイナーが実践している手法で、インスタグラムで見かけた美しい作品に触発されたのがきっかけです。
実際に試して分かった致命的な問題点
2023年9月から11月にかけて、合計12回この方法に挑戦しましたが、すべて実用レベルには達しませんでした。主な失敗理由は以下の通りです。
- 固定力の不足:小枝同士を組み合わせただけでは構造が不安定で、少し重い花材を挿すと全体が崩れてしまいました
- 準備時間の長さ:適切な太さと長さの枝を選び、組み合わせるだけで平均45分かかり、平日の限られた時間では現実的ではありませんでした
- 花材の選択肢が限定される:茎が細く軽い花材しか使えず、バラやダリアなど重量のある花は支えられませんでした
- 保水の難しさ:枝の隙間から水が蒸発しやすく、花持ちが通常より3日ほど短くなりました
最も困った「見た目の問題」
技術的な問題以上に困ったのが、仕上がりの美しさでした。小枝が花器の中で目立ってしまい、どうしても「未完成」「雑」な印象になってしまったのです。透明ガラスの花器では枝組みが丸見えになり、陶器の花器では花材の配置が制限されて自由なデザインができませんでした。
特に印象的だったのは、11回目の試作で作ったリシアンサスとユーカリのアレンジメントです。2時間かけて丁寧に小枝を組み、慎重に花材を配置しましたが、完成した瞬間に「これなら普通に花瓶に挿した方が美しい」と感じてしまいました。エコアレンジを追求するあまり、本来の目的である「美しさ」を犠牲にしていたことに気づいたのです。
失敗から得た重要な教訓
この失敗を通じて、「環境への配慮」と「実用性・美しさ」のバランスが重要だと学びました。理想を追求するあまり、日常的に実践できない方法では意味がありません。小枝固定法は確かに最もエコな方法ですが、忙しい社会人が平日夜に30分で美しいアレンジメントを作るという私の目標には合致しませんでした。

この経験が、最終的にチキンネット方式に落ち着く決定打となりました。完璧なエコではなくても、実用性と美しさを保ちながら環境負荷を大幅に減らせる方法こそが、現実的な選択肢だと確信したのです。

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